源氏名にも流行や傾向がある
源氏名とは、そもそも源氏物語の巻の名にちなんで、遊女や芸者などにつける優美な名前のことである。
キャバクラ嬢になった女の子は、本名以外に店でのもうひとつの名前、優美であるかどうかはさておいて、源氏名を持つことになる。
多くの店では、源氏名はキャバクラ嬢自身が選択し、決定するというが、まれに店長が命名して決まることもあるらしい。
たとえば規模の大きな店ではそれだけ多くの女の子が在籍しているわけで、当然女の子の数だけ名前があるということになる。
そんな場合には、いざ好みの名前をつけていいよと言われても難しい。
そこで店長が三つないし四つの名前を提示し、さあお好きな名前を選びなさい、となるのだ。
最近では流留(るる)、里衣(りい)といった名前が流行のようだ。
オジサンにウケる顔だから和風の名前にされちゃった
[char no=1 char=”まきか”]いまのお店は三軒目。[/char]
はじめの店での名前は「リオン」。
なんでかって?
特別意味なんかないよ。
ちょうど面接の前の日にビデオで「レオン」って映画を観たから。
名前どうするって聞かれた時に、レオンてタイトルが浮かんで、レオンにしようと思ったけど、店長がそれじゃどうも男っぽいって。
じゃあレをリにしてリオンにしようってね。
次の店では「ありか」という名前だった。
前がカタカナだったから今度はちがうのがいいと思っていて、面接に行く前に決めていたの。
リカちゃん人形の「りか」がよかったけど、それじゃあまりにも単純すぎるし、「りか」なんてどこにでもいそうでしょう。
そこで「あ」を付けて口に出して呼んでみたら、これがなかなかよかったの、だからこれに決定。
それで次のの店に移る時も、そのまま「ありか」って名前を使うつもりだったけど、「君の顔は年配のオジサンにウケる顔だから、それらしい名前にしたほうが指名も伸びる。池波志乃のイメージだ!」
面接で店長がそういって、その場で「志乃」になっちゃった。
私的には池波志乃って誰?って感じで、知らなかった。
中尾彬の奥さんなんだってね。
お客さんに教えてもらったくらいだもん。
はっきりいっていまの名前、好きじゃない。
ほかの子は沙理奈とか樹里とか、セリカだもん。
ちょっと浮いちゃってるって感じ。
いまさら名前を変えるわけにもいかないから、我慢するしかなかったけど、名刺を作るときに、とぼけて「篠」って字にしてやった。
シノはシノだもん。
お客さんも迷わないでしょう。
私の場合は、そんなに名前にこだわらないけど、前のお店にすごくこだわる子がいたの。
私なんかバカみたいと思うけど、その子は名前はすごく大事だって、名前で商売運も変わっちゃうとかなんとかで、お店での名前をわざわざ偉い占いの先生につけてもらったって言ってた。
命名料に二万円払ったんだって。
でもね、最近思うのは、名前って案外バカにできないなって。
特にタレントと同じ名前だけは付けるもんじゃない。
「結衣」って子がいるんだけど、本人はそのつもりなくてもお客さんによっては結衣イコール新垣結衣ってイメージになるみたい。
それである時フリーのお客さんについて名刺を出したとたん、
「なんでお前が結衣なんだ! 詐欺だぞ! お前は春菜でいい、近藤春菜!」
そんなふうに怒られたの。
その子、席で泣いちゃった。
もちろん店長からは、お客さんの前で泣くとはなってないと厳重注意されたけど。
ほんと、旬の女優やタレントの名前だけは付けないほうが懸命かも。
そう思う今日この頃かな。
名付けた本人も書けなかった 難しい漢字の名前
[char no=2 char=”るみい”]ふつうだと店長が名前を付けてくれたり、自分で考えたりするらしいけど、私の場合は店長の突然のアイデアで、はじめてついたお客さんに名付けてもらおうってことになってね。[/char]
その頃は、この仕事はじめてだったから、そんなものなのかなと承諾して、初出勤の日にフリーで来たお客さんについたの。
そうしたら席に店長がやってきて、「お客様、この子なんですが、今日新しく入りましてまだ名前が付いていません。ぜひとも命名してやってください」
そういってペンと紙をお客さんに手渡したの。
それからその席は、もうひとり付いた女の子とお客さんで、どんな名前がいいのかで盛り上がったけど、名前を付けられる本人の私は蚊帳の外。
ふたりで、こういうのはどうだとか、似合うとか似合わないとか。
それも、ほとんど不真面目なものばかり。
たとえば、させこ、ヤリエ、チクビちゃん……とか。
バカにしやがってと、ほとんどキレる寸前。
それを女の子が察して、ようやくちょっと真面目に考えようってなったけど、いざとなったらタレントの名前くらいしか出てこない。
それでやっと決まったのが「紗櫻」って名前。
気に入ったわけじゃないけど、それまでに出てきたチクビちゃんとかにくらべたら数段いいように感じたし、拒否してもっと変な名前になるのも嫌だったから、納得して紗櫻に決めた。
でも、そこからまたひと騒動。
店長に名前が決まりましたって報告したら、店名と住所と電話番号だけ印刷された名刺を渡されて、そこに自分で名前を書いてお客さんに渡しなさいって。
それでサクラって書いて、名前を付けていただいてありがとうございましたと渡したら、「ちがうな。カタカナのサクラだとイメージがちがう。漢字のほうがいいから漢字にしようよ」となって。
でも、漢字で紗櫻なんて書いたこともないし、どうやったって書けない。
付けた本人のお客さんも書けなくて、もち、店長も。
それでボーイさんがスマホの漢字辞書を見てなんとか書いてくれた。
ほんと大変な名前になったけど、たぶん一生「紗櫻」って字は忘れないよ。
命名してくれたお客さんは、その後一年くらいよく来てくれて、指名してくれたけど、このところ来なくなったな。