客にもキャラクターあり
キャバクラに入店を断られるのは、明らかに同業者と思われる人間か、明らかにその筋(いわゆる暴力団・半グレ)とわかる人間である。
それ以外で、料金の支払いが可能な人間が入店を断られるケースはほとんどないはずだ。
それだけに、どんなタイプの客が来店するのかわからない。
いい客、嫌な客に当てはまらない、そういうカテゴリーに属さない珍客が来店することもあるという。
キャバクラ嬢たちが実際に見た、ユニークな珍客たちのエピソードのいくつかを紹介しよう。
言葉のわからない外人さんを残してひとり先に帰ってしまったおじさん
たぶん接待かなにかだったと思うけど、日本人のおじさんひとりに、外人のお客さん三人というグループがフリーでやって来たことがありました。
もちろん私たち英語なんて話せないじゃないですか。
でも、日本人のおじさんがいるし、何回も海外旅行していてほんの少し、簡単な単語ならわかるって子を店長が選んで一緒につけてくれたから安心していたら、外人さんたちはみんな黒人で、アフリカのなんとかっていう国の人だったんです。
だから、公用語はフランス語となんとか語で、英語はあまりできないって。
しかたないから、その外人さんたちを連れてきたおじさんを頼りにしようとしたら、なんとおじさんも言葉はダメ。
エーって感じでしたよね。
なんで言葉もわからないのに一緒にいるのって聞いたら、言葉のわかるスタッフが奥さんの急病とかで帰っちゃったって言うの。
だったらキャバクラなんかに来ないで、接待するの止めればよかったのにね。
でも、とにかく私たちもついたからにはなんとかしないといけないでしょ。
身振り手振りで、必死にコミュニケーションしようとがんばったんだけど、五十しゃべって一通じるくらい。
しかも三十分くらいしたら、おじさんがトイレに行くって席を外して戻って来ない。
そしたら店長が来て、おじさんは外人さんとお金を残して、ホテルはどこどこだから、適当な時間になったらタクシーに乗せてやってくれって、先に帰ったって言うの。
信じられないでしょ。
一応それなりに相当なお金も置いて行ったって言うし、まさかすぐに追い出せないじゃない。
なんとか一時間くらいがんばって帰ってもらおうとしたけど、それを伝えられないのよね。
グッバイとか、シーユーアゲインとか言っても、わかったようなわからないような。
で、ホテルへ帰る時間ですよってつもりでゴーホテルタイムみたいなことを言ったの。
そうしたらようやくわかったのか、席を立って一緒にお店を出ました。
ところが、タクシー捕まえて乗っけようとしたら、私たちの手を引っ張って離さないんですよ。
それを無理やり引きはなして、タクシーの運転手さんにホテルの名前を言って出してもらったけど、後になってゴーホテルっていうのがよくなかったんだって気付いた。
きっと一緒にホテルへ行くって思ったのでしょう。
都合のいいことだけ理解したんでしょうね。
ジェントルマンのおじいちゃんがある事件をきっかけにスケベジジイに変身
もう二年近く毎週一回、決まった時間に通ってくれる七十四歳のおじいちゃんがいるんですよ。
いつもジャケットを着てネクタイ締めて、たぶん若いころはダンディでカッコよかっただろうなって感じのおじいちゃん。
お店ではおじいちゃんがいつも座る席を決めて、シルバーシートって呼んでるくらいです。
最初のころはほんとうにジェントルマンで、若い女の子とただお話するのが楽しいといった感じで、一輪ずつだけど毎回、バラの花を持って来てくれるし、正直私たちもそのおじいちゃんのファンで、会えるのをいつも楽しみにしていました。
ところが、何度目だったかな、一度ある事件があって、ジェントルマンがとんでもないスケベジジイに変身しちゃったんですよ。
その事件とは、いつものように機嫌よく話していた時、おじいちゃんが水割りのグラスを口に持っていったら、グラスの口が歯に当たっちゃったの。
その瞬間、ポロって感じで、入れ歯が外れて、それがグラスのなかに落っこちたんです。
まるでコントみたいにね。
でも、笑えなかったですね。
というより、唖然として私ともうひとりの子と固まっちゃった。
おじいちゃんは慌ててグラスのなかに手を突っ込んで、底に落ちた入れ歯を取ろうとするけど、手が入らない。
しかたなくグラスの水割りを一気飲みしてなんとか取り出して、口にはめた。
確かに光景としては面白かったし、それまでの紳士ぶりからすれば意外なことだったけど、冷静に考えれば七十を超えたおじいちゃんなんだから入れ歯していたって驚きもしないですよね。
でもおじいちゃんにとってはショックだったのかも。
明らかに落ち込んだ様子になりましたね。
次の週に来てくれるかどうか心配していたけど、また来てくれました。
でも、いつも持って来てくれていた花はなし。
それで席についたら、おっぱいは触ってくるし、露骨に股間を覗き込むし、おまけに自分のオチンチンをさすりだすの。
そしして勃起してるのを確かめろって、私たちの手を取って、そこへ持って行くの。
たぶんショックだったのと同時に開き直っちゃったみたい。
もうカッコつけても仕方がないって、そう思ったのでしょう。
とにかく、以来、チョーのつくほどのスケベジジイに変身しちゃった。
聞いたら、うちの店を出た後、ソープに行ってるって。
毎週毎週よ。
元気だなと思う反面、大丈夫なのって心配になっちゃう。
ふつうなら触られたりするのは嫌だけど、そのおじいちゃんにはなんとなく許してあげているって感じかな。
ボランティア精神ですよ。
たがいに知らない親子の隠された秘密
これまででいちばん変わったお客さんは、親子で来たお客さんですね。
オヤジさんが四十五歳で息子が十九歳。
オヤジさんが息子を連れてきたんですよ。
オヤジさんのほうは何度か来てくれたことのある会社の部長さんで、いつも豪快で、豪傑な感じの人。
実は同伴も三度お願いしたこともあるし、アフターも何度かあるんです。
エッチな関係にはなっていないけど、二度ほど求められて、危ういということもありました。
でも、勢いでキスまではしちゃってます。
息子がいるってことは、当然奥さんがいるってことでしょ?
男親と息子っていう関係はよくわからないけど、お父さんがキャバクラへ行ってるっていうのを息子に教えてもいいのって気がするけど、どうなんでしょう。
しかも、そのお父さんはキャバクラ嬢にエッチまで迫ったことがあるし、キスもしてるんだよ。
奥さん、お母さんは知ってるのかなって、心配しちゃった。
オヤジさんが言うには、その息子は大学生で、童貞だって。
これまで女の子と付き合った経験もないので、心配になって連れて来たんだと言うわけ。
ほんとうならソープとかに連れて行って筆下ろしをさせるけど、まずは女の子慣れしたほうがいいからキャバクラを選んだなんてことを、息子を前にしてペラペラ私たちにしゃべり続けるの。
でもね、息子のほうについた女の子から後で聞いたんだけど、オヤジさん、まったく息子のことをわかってなかったみたい。
だってその息子、童貞どころか初体験が高校一年生の時で、しかも相手は家族ぐるみで付き合いのある、オヤジさんの友達の奥さんなんだって。
それだけじゃなくて、いま付き合ってる子はヘルスの女の子で、一度妊娠までさせちゃったことがあるらしいの。
家ではいい子で通してるけど、けっこうなワルだって自分で言ってたらしい。
一瞬バカなオヤジだなと思ったけど、ちょっと哀れな感じになっちゃった。
いちばん怖いのはやっぱりストーカーです
時々、この人はヤバイかなっていうお客さんが来ます。
長くキャバクラでやってると、なんとなくわかるんですよね。
あっ、この人そうじゃないかなって。
そう感じた人はまず80%その通りです。
ズバリ、そのヤバそうなお客っていうのはストーカータイプの男です。
ストーカー防止法なんていう法律ができたらしいけど、確実に増えてるんじゃないかな。
うちのお店の女の子でも、狙われた経験のある子が三人いるもの。
ほんとうは、ひと目見てそうだとわかれば逃げようもあるんだろうけど、私たち、まず席につくと、名刺を渡して名前を言って挨拶するでしょ。
で、営業もあるからお客さんの名刺ももらうし、お客さんから電話があれば営業の手間が省けるからって、こっちのスマホのラインも教えちゃうんです。
それから話していくにつれ、この人ひょっとしたら危ないんじゃないかなってなんとなくわかってくる。
もちろん根拠はないけど、どことなく湿ったような言葉使いだったり、言うことが稲川淳二よりも怖いようなことだったりしてね。
たとえば、どこに住んでるの?
なんて聞いてくるでしょ。
それで白金に住んでるから、白金って答える。
そこまではふつうの会話なんだけど、でもその先が問題で、白金のどこってことになるの。
もちろん答えない。
そしたらさ、
「君の住んでるところくらい、すぐに調べられるよ。たぶん君は僕と付き合うことになるし」
マジでこんなふうに言ったりするの。
ゾーッって全身鳥肌状態。
止めて、お願いだからって感じ。
すぐにボーイさんを呼んでチェンジしてもらいます。
うちの女の子のひとりも、こんなお客について狙われたの。
フリーで来たお客で、ヤバそうだと思ったから営業もしなかったし、ライン友だちになったけどブロックしてつながらないようにしたんだって。
その後一度も来ないし、携帯に掛かってきた様子もないから安心していたら、二週間くらいしていきなり宅配便で花束が届けられた。
差出人を見たら、その時の客の名前だった。
もちろん住所なんて教えていないし、どのあたりに住んでいるのかすらも話していなかったのに。
それで怖くなって、受け取ったら終わりだと思って、同じ宅配便で送り返したんだって。
そうしてしばらくしたころ、お店が終わって外に出たら、なんか視線を感じて道路の反対側を見たらそいつが花束を持って立っていたらしいの。
きっと帰りにつけられたんでしょうね。
もうほんとうに怖くなって店長に相談して、そいつをとっ捕まえて懲らしめてもらったんだって。
幸いそれ以来その男からはなにもないらしいけど、こういう経験している女の子って多いんじゃないのかな。
有名人ご一同様ご来店は、ドキドキ、ヒヤヒヤ
一般のお客さんはもちろんだけど、キャバクラにはいろいろな人が来ます。
たとえば芸能関係の人、そのものずばり芸能人。
うちのお店ではお笑い系の人が多いけど、元アイドルの俳優さんや歌手、若手のミュージシャンもたまに来られます。
ほかにはプロ野球選手もいますね。
そういった、いわゆる有名人のお客さんに共通しているのは、まずひとりでは来ないこと。
かならずお付きの人とかスタッフの人を引き連れて、賑やかに盛り上がるんです。
でも、それぞれ遊び方というか盛り上がり方がちがいます。
芸能人はテレビとふだんの態度がちがうなんてよくいわれるけど、実際にそんな人が多いのは事実。
でも、お笑い系のKちゃんは、テレビで見るのとそのままで、終始ニコニコしていてご機嫌で、ギャグも披露してくれたりしましたよ。
それに店の女の子を四人連れて、アフターでカラオケに行きましたが、態度はずっと紳士的。
帰り間際には、「今日は遊んでくれてありがとう」なんて言いながら、みんなに一万円ずつチップを出してくれました。
ほんとに遊び慣れているって感じで、スマートでカッコよかったですね。
ただ、有名人の人が来られた時、大変なのはほかのテーブルのお客さんです。
やっぱり顔が売れている人ですからね、みんな注目するし、酔ったお客さんが絡んでくることもあります。
当然私たちやボーイさん、店長が間に入りますが、そんな非常識なお客さんのせいで、席の雰囲気が変わってしまいますよね。
また、わざと有名人の席についている女の子を指名して、さんざんその人の悪口をいい続けるような人もいます。
私たちからすればそんなお客は最低で、コンプレックスのかたまりにしか見えません。
あるチームの野球選手が十二人ほどで来られて一角に陣取っていた時も、けっこうヒヤヒヤものでした。
野球にはあまり興味がないし、よく知らないけど、ちょうどシーズン中で、チームの成績がよくない時だったみたいで、たまたまそのチームのファンだった人なのかどうかわからないけど、
「ろくな成績も残せてないのに、こんなところで産んでいていいのかよ!そんな暇あったら、練習でもしろ!」
と、はっきり聞こえるような大きな声で言うんです。
それを聞いて、いちばん思い当たることがあったのか、ふたりの選手が立ち上がりました。
ああ、ケンカになるかもなって思って、店長もすぐにやって来ました。
その時ひとりの若い選手がパッと立ち上がって、
「申し訳ありません。いつも応援していただいてありがとうございます。今夜この気分転換を境に、優勝目指してがんばります」
そういって野次ったお客さんに頭を下げました。
その出来事で彼は一躍女の子たちにモテモテ。
絶対にアフターしたかったけど、二時間ほどいて、スーッと帰っちゃった。
それからずっとスポーツ新聞に目を通して彼の活躍ぶりに注目していたけど、どうもよくなかったみたいです。
それ以降は顔を見せてくれないのが残念だな。
レズのお客さんに口説かれて危機一髪でした。
一度だけ女のお客さんについたことがあります。
本人は男性用のスーツを着て、しゃべり言葉も男のようにして懸命に男っぽく振る舞って、自分を女だとは思っていないようでしたけど、やっぱり女です。
バリバリのレズの人でした。
男の人だと思ってお相手してればよかったんだけど、どんなに贔屓目に見ても女だし、第一印象でそう思ってしまうともう男だとは思えませんよね。
だから、その人が男言葉でしゃべればしゃべるほど、なんかむず痒くて、気持ち悪くてたまらなかったんです。
それで、どうして女性なのに無理に男になろうとするんですか? なんて聞いちゃった。
そうしたら、いきなり店長を呼んで、
「テメーとこの店はホステスの教育してねえのか!」
もうすごい口調で怒鳴り散らしたんですよ。
ほかのお客さんの手前、店長は平謝りで、なんとかその場を収めたんですが、その人も女の子をチェンジすればいいものを、ずっと私を指名でつけておくんですよ。
それで、ほかの男のお客さん以上にしつこく、私の肩を抱くようにしてアフターに誘ってくる。
私は全然その気がないし、一度トラブルになったわけだし、嫌だから断っていたら、また店長を呼びつけるんです。
店長もそんな客よりもお店の女の子を守るべきだと思うのに、まったく言われるがまま。
けっきょく店長命令で、同伴扱いということでアフターに付き合わないといけなくなってしまいました。
アフターしてわかったのは、彼女は考え方もやることも男そのもので、とにかくやらせてくれって迫ってくるんですよ。
いや、男の人よりももっとストレートかも知れない。
俺は女のツボを心得ているからかならず満足させてやるとか、俺と寝たらもうほかの男とは付き合えなくなるとか、とにかく強烈でしたね。
でもね、お酒が入ってきて、しばらくそうして一緒にいると、ちょっと変な気分になりましたよ。
とにかく肩の抱き方だとか、サッとなにげなく触るときのポイントとかが妙に気持ちいいんです。
男の人のそれとはちがうんですよね。
なんとか踏みとどまって、逃げきれたのは「俺と寝たらほかの男とは付き合えない」という一言でした。
だって、やっぱり男が好きだし、男と付き合えなくなるのは嫌だったから。
アソコの毛をくれって言った、競馬狂のお客さん
私「あげまん」なんだって。
ある日ついたお客さんが、ギャンブル好きで競馬に命賭けてるって自分で言うんですよ。
でも、しばらくさっぱり当たらないんだって。
私は競馬なんてまったく興味もないから、へえーって聞いていたの。
しばらくしたら、競馬新聞取り出して私に見せて、好きな名前でも番号でもいいから言ってくれ、それを買うからって言うの。
だけどね、もしそれでハズれて、私の責任にされたらたまらないじゃない。
だから嫌だって、さんざん断ってたけど、ハズれても絶対に怒らないし、責めないからって。
それでしかたなく、ハズれても関係ないし、もしも当たったら次に指名で来ることを約束して、競馬新聞の枠のなかから適当にこれとこれって指差してあげました。
三日後、私はすっかりそんなことがあったのを忘れていたけど、そのお客さんが来たんですよ。
当たったんだって。一万円買って配当が5,000円だか6,000円だかついたとか。
チップを五万円くれて、シャンパン抜いて、私のことを「あげまんちゃん」なんて呼んだりして、もう大騒ぎ。
次も頼むよって言われて、ほんとうにまた三日後に来ました。
それでまた競馬新聞から適当に選んであげたんだけど、もうひとつお願いがあるって言い出したので、とりあえず聞いてみたら、私のアソコの毛を一本くれっていうの。
ツキを持っていたいから、頼むって。
チップももらってるし、毛の一本や二本どうってことないけど、今度もう一度当たったらあげるってことにしたの。
どうせ今度は当たらないと思っていたしね。
それで毛が悪かったって思われるのも、毛がかわいそうだし。
そうしたら、なんと、またまた当たっちゃったの。
でも、今度の配当は三番人気だったとかで九七〇円。
とはいえ、お客さんは私を信じて五万円買っていたんだって。
それでまたチップもらって、シャンパン抜いて。
適当に馬を選んで、いよいよアソコの毛を渡さないといけなくなりました。
その場で抜いて、ハイってわけにはいかないでしょ。
それで、抜いてくるねっていって席を離れ、トイレに行ったけど、ちょっとイタズラ心が出たのね。
お店の女の子のものだろうけど、たまたまトイレにそれらしい毛が落ちていたから、それを二本ほど拾って、どうぞってティッシュに包んであげちゃった。
以来、そのお客さん、来ないんです。
たぶんハズれちゃったんでしょう。
拾ったのが「さげまん」の女の子の毛だったのかな。
お客さんには悪いことをしたなって反省してます。
また来てくれたら、今度はちゃんと私のアソコの毛をいっぱいあげようって思ってます。